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伝統のほにゃららを守り続ける登場人物──『くじ引き勇者さま』3番札

読書


 HJ文庫での執筆が順調な清水文化の描くラブコメディの3冊目。
 ええ、もはやラブコメとしか言いようのない展開です。
 ビバらぶこめ!

 現実世界で言うところの黒死病スペイン風邪並の大流行をもたらす病、デスペラン(通称ドラゴン病)を巡るメイベルとナバルの旅も大詰め。宗教上の理由で目的地をその都度くじ引きで決めていくという凄まじい方法で続く旅は、遠回りをしたあげくに、根源と疑われるドラゴンの住む聖地に。20万、50万の軍勢をも殲滅してしまうドラゴンたちに、メイベルたちは如何に立ち向かうのか……と思ったら、一緒に鍋食ってますけど。ええと……。
 小説を書く際に、キャラ造りにつまったら鍋を囲ませろとは、誰の言葉だったでしょうか。『汝は人狼なりや?』で本当に踊った銅大さんだったでしょうか。鍋を食べる様、そのときの会話で、キャラは形作れるという話だったように記憶しています。椎出だったら露天風呂に入ってもらう(女性キャラ限定)のですが、鍋の方が、より普遍的で、食欲が絡むだけにキャラクターの輪郭と内面がはっきり出来る、ということでしょう。この3巻では本当にドラゴンと鍋を囲むことで、ドラゴンの生態が明らかにされていきます。いちいち理屈にかなった設定になっているのは、相変わらず清水文化らしいところです。
 ついでに人間の保存食についても触れられています。瓶詰めは比較的普及しているらしく、立ち寄った教会で蒸鶏のオイル漬けを分けてもらっています。ガラス製の密閉容器に保存するという手法は現実世界でも16世紀のヨーロッパでは広く知られていた事のようです。さらにメイベルは缶詰の存在についても触れており、こちらは現実世界だと西暦1810年に発明されたそうで。缶を空けるときにナイフでこじ開けなきゃいけないとも言っているので、まだ缶切りの発明(西暦1858年)までは文明は進んでいないようです。優れた料理人でもあるメイベルが保存食に興味を抱いたなら、缶切りの発明まではあとわずかでしょうが。
 
 一方、メイベルとナバルの個人的関係は、

  • メイベルがモーションをかける→ナバルは気づかない
  • ナバルが不器用なくせに気配りをする→メイベルが深読みしすぎて自爆する

 という方向性で確定した模様。メイベル、報われません。
 しかしながら、一応進展もあり、この巻の半ばからお互い『さん』付けをやめて呼び捨てになっています。旅がはじまってから2ヶ月。早いような遅いような、むず痒い進展を続ける二人なのでした。

 最後のオチは、予想外と言えば予想外。不本意ながらまた旅に出る羽目になることに。こういう姑息な罠を仕掛ける悪役は、やはり必要です。

 そういえば、清水文化の小説の伝統といえば、あとがきは登場人物が作者に替わって行うのが恒例ですが、このシリーズでは友人Aが姑息な手段であとがきを乗っ取り続けます。気象精霊記の時の交代理由は作者の体調不良だったような気もするので、どうやら作者の健康状態は良好のようです。

 ところで。
 表紙イラストをご覧下さい。
 くじびき勇者さま3番札 誰が聖女よ!? (HJ文庫 し 2-1-3)
 メ、メメメメメメメメ、メイベル!? ガーターストッキングだったのかああああああああ!?*1

*1:しかも黒