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焼きそばパン

掌編 小説

 昼になったら焼きそばパン。購買行って焼きそばパン。焼きそばパンったら焼きそばパン。

 そう。

 今日は朝から、気持ちが焼きそばパンだった。別に朝飯が焼きそばパンだったわけじゃない。

 ただ、朝起きて、歯磨いたり着替えたりしていたら、母親がこう言ったのだ。

『今日は、お米炊き忘れたから、パン買って食べて』と、俺に、千円札を手渡したのである。

 危うく俺は、気分が舞い上がりすぎてヒャッハー! と叫ぶところだった。いや、叫んでない。自重した。自重したが、興奮は抑えきれなかった。んなもん、おつりは小遣いとしてありがたく頂戴するに決まっているではないか。絶対返さねえ!

 そして俺は、その千円札をポケットに突っ込んで、コンビニに寄り、さて何を買おうかとパンのコーナーを——焼きそばパンが、なかった。なかったのだ。ただそれだけだったのだが。

 そのことが、俺の心の中の、何かのスイッチをバッチーンと入れていた。

 無かったら無いで、余計食べたくなる、というやつである。

 昼になったら焼きそばパン。購買行って焼きそばパン。焼きそばパンったら焼きそばパン。

 コンビニに焼きそばパンがなかったからって、何も買わずに出てきたのがますます悪かった。

 だんだん腹が減ってきた。そして俺の心の中は、ただひたすらに焼きそばパンだった。

 昼になったら焼きそばパン。購買行って焼きそばパン。焼きそばパンったら焼きそばパン。

 昼になったら焼きそばパン。購買行って焼きそばパン。焼きそばパンったら焼きそばパン。

 

 授業がまさかの延長戦で、購買はすっかり静けさを取り戻していた。そこに、俺と、チビ。

 チビっちゃいくせに上から目線の後輩女子は、最後に残った焼きそばパンを指さした。

「そもそも、これは本当に焼きそばパンなのでしょうか?」

「お前はこれがあんパンにでも見えるって言うのか」

「まさか。私はただ、これが本当に焼きそばパンなのですか、と申し上げたいんです」

「わけの分からん問答はいいから、そこをどけ。そして俺に焼きそばパンを食わせろ」

「あら。センパイは、紅ショウガの乗っていない、これを、焼きそばパンと認めるんですか?」

 言われてみれば、紅ショウガは乗っていない。青のりが申し訳程度に振ってあるだけだ。

「あの紅ショウガの甘酸っぱさなくして、これを焼きそばパンと認めてしまうんですか?」

 だが、だからといって、これは焼きそばパンだろ。焼きそばの挟んである、焼きそばパン。

「いいんですか? そんな焼きそばパンでセンパイの朝からの欲望は、満たされるんですか?」

 ぐ。確かに紅ショウガのない焼きそばパンは、焼きそばパンと言って良いのか。完全体たる焼きそばパンこそを、俺は求めていたんじゃ無かったのか? 俺は、迷った。そしてその瞬間。

 不完全な焼きそばパンは、後輩女子の手の内にあり。購買のおばちゃんの『毎度ありー』という言葉がむなしく響き。そして、チビが背伸びして、俺の耳にふうっと囁きやがった。

「私は、不完全な焼きそばパンでいいんですけどね。私、センパイのそういうところ、嫌いじゃないです。ううん、むしろ好きですよ。大好きです」

 

 

 

「てめえ、おちょくるのも大概にしやがれ」

「あは、わっかりましたあ?」

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たまには少し書かないと、と思って書いてみた。オチてないね、これ……