白兎よりも黒きもの……『鋼鉄の白兎騎士団(はがねのしろうさぎ)』9巻


どの本の表紙絵を見ても太ももが眩しい、鋼鉄の白兎騎士団シリーズも、9巻となった。
なったのだが、この日記では一度も取り上げてなかったような気がする。
なので、まずは大ざっぱにあらすじを。

主人公ガブリエラが、毎回毎回腹黒い策略で勝利をもぎ取っていく、暗黒大魔王の世界征服記です。

……うそです。いや、うそじゃないんですが、うそです(どっちだ)
だが、このシリーズを読んでいる方は、ドゥイエンヌ小隊長のごとく『そうだわね、それでおおむね間違ってなくってよ』と同意していただけるのではないだろうか。
主人公のガブリエラは、本人にそんなつもりはないのかもしれないが、極めて客観的に策略を練ることが出来る。客観的すぎるので、味方にも大きな負担を課す、そういう策を遠慮無く出せる。1巻では大多数の受験者たちを、わずか6人で失格させ、2〜3巻ではレフレンシアの想いを見なかったかのように(実際には目の当たりにすることになったが)騎士団を襲った陰謀の黒幕を暴いて見せた。その後も次々と敵味方の区別なしに恐怖のどん底に叩き落としつつも、味方に大きな勝利をもたらしてきた、そんな主人公である。
だが、普段のガブリエラは、実に頼りがいのなさそうな見た目である。口調だって、なんか頼りない。もっと頼りがいのなさそうなキャラが騎士団幹部にいるために目立たないが、普段のガブリエラの頼りなさは、素晴らしい。策略家のくせに、見習いで配属された庶務分隊を、わずか数日で叩き出されている。庶務分隊とは、騎士団の経理とかを担当している部署である。そう、ガブリエラは、算術が苦手なのだ。本編では幸いにして、算術を必要とするシーンはこれまでないが……*1
そのおかげか、騎士団内部ではガブリエラはあまり嫌われていないようである(例外はガブリエラの策略のせいで大変な目にあった庶務分隊)。読者も、えげつない策略を繰り出すガブリエラを、暗黒大魔王とかいいながらも、結構愛しているんではなかろうか。


さて。
コリントゥスでの反乱の件が片付き、長期休暇を賜った遊撃小隊の面々は、物見遊山の旅に……というところで8巻が終わっていたので、てっきり9巻ではキャッキャウフフな面白珍道中になる……かと思ったら、あっさりと休暇取り消しになっていて、噴いてしまった。
時代は乱世へと動いており、確実に白兎騎士団はそれに巻き込まれているようである。
ガブリエラたち遊撃小隊の面々も、小隊として初めて戦場に立つことになる。
意外だったのだが、ガブリエラが、自らの手で初めて人を殺したことが、この9巻で語られる。策略で数多くの人を(結果として)屠ってきた彼女だが、直接手を下したのは、これが初めてであった。
『ガブリエラは次に誰を殺すのかしら』とは、仲間たちが彼女を揶揄するときの言葉の一つだが、まさかそれが、名もなき敵兵士であったとは、意外であった。


この巻でもガブリエラの見事な策略が大当たりするのだが、それを実現たらしめたのは、これまで戦闘狂の面が強く描かれてきた番隊長、アルゴラの驚くほどに思慮深い一面だった。彼女が一時の部下の最後を看取るシーンなどは、その最たるものだろう。(そんなアルゴラをガブリエラが極めて客観的に評価する。ここに主人公であるがゆえにガブリエラが背負っている深い業も感じる。ガブリエラも主人公*2でなければ、ここまで客観的にアルゴラを見るような描写をされなかったはずだ。)
『鋼鉄の白兎騎士団』シリーズはこれから、キャラの深い内面を描いていくことで、さらなる盛り上がりを見せていく。そんな予感がこのシーンに満ちている。


ところで。我らが小隊長殿、ドゥイエンヌは『原生林』らしいよ。胸の大きさについてはこれまで数多くのキャラが描写されてきたが『原生林』とはどういうことだろうね。やっぱり小隊長殿はおっとなーってことだろうかね!?

*1:1巻の入団試験、実はその後に計算や料理が課目として用意されていたらしい。ガブリエラの苦戦は必至。だがそれでは物語が進まないので、これで良かったのだろう

*2:つまりは読者に筆者の意図を伝える語り手