大丈夫、最後はちゃんと野球に戻ります……『帝都たこ焼き娘。 大正野球娘。3』


アニメでは第1話の初っ端に『東京節』を二番まで歌って、時代背景の説明に時間を費やした『大正野球娘。』の3巻。
タイトルの通り、たこ焼きを焼くお話です。……だと終わってしまうな(笑)
『たこ焼き』でググると何となく判るが、大正十四年にたこ焼きは、まだ無い。一説には、たこ焼きの誕生は昭和八年頃といわれているから、あと八年ほど後のことになる。
では、小梅たちが実際に目にしたであろう食べ物とはなんだったのか。
物語中で小梅のライバルとして立ちはだかる、桜が調理したのが、一銭洋食。これは大正年間には関西で生まれていたようである。ソース味ならなんでも洋食、というような認識だったそうなので*1、中の具材は全く洋食ではないが、洋食である。だが、本書の記述から行くと、どちらかというとラヂオ焼きだったんじゃないか、という気がする。
一方の帝都東京では、この頃にはすでに同じく小麦粉を溶いたモノを焼く料理として、もんじゃ焼きがあったであろう……と思われる(江戸末期にはすでに原形があったらしい)のだが、本書ではもんじゃのもの字も出てこない。お嬢さまたちには、もんじゃ焼きを食べる地域に足を運ぶ機会がなかなか無かったのだろう。
小梅は、初めて見た一銭洋食から、試行錯誤の末にタコを具に入れた一銭洋食……たこ焼きを開発することに成功する。史実から先駆けることおよそ八年。またもや画期的なことをお嬢さまたちはやらかしたのである。*2
しかも小梅は、ここからさらに味の改良をする。天かすとガリの追加である。これにあとマヨネーズがあれば、現代のたこ焼きである。さらには、ポン酢を使ったつけだれまで作ってしまう。これは、いまでいう明石焼きのような感じだろうか。あるいは、神戸たこ焼きかもしれない。*3いずれにしても、小梅の食に対する発想力は、2巻のバナナチップスでも垣間見ることが出来たが、ここにきて大爆発である。
さて、ここまで野球に全く関係がない話であったが、それでもなお、本巻はちゃんと『大正野球娘。』である。
なぜなら、創意工夫で圧倒的不利な状況を覆そうと、悪戦苦闘するその姿こそは、全くこれまでと変わっていないからである。
失敗もしでかしている。梅干し入り一銭洋食とか、お嬢のおにぎりとか、工夫をしてみたものの、どうにも方向を間違っているものは数多い。だが、それを笑うことが出来るだろうか。お嬢さまたちが失敗しなかったら、そんなお話、つまんないのである。わざわざ語ってもらわなくてもいいのである。失敗したりもするからこそ『大正野球娘。』には価値があるのである。

それはともかくとして、本巻ではやたらときゃっきゃうふふである。小梅がモテすぎる。お嬢、乃枝、巴に加えて、本巻デビューの桜などが、小梅の奪い合いである。だがここでは、もう一人小梅争奪戦に名乗りを上げた一年生、胡蝶を推しておこう。こっそりと一銭洋食用の鉄板を買っていた胡蝶! 匂い袋の香りを小梅に合わせていた胡蝶!胡蝶かわいいよ胡蝶! コミカライズではいまいち目立ってないけどアニメではきっと活躍するって、信じてる!

*1:洋食がみんなソース味だったわけではない。ソース味というのは安価でありながらオシャレだったのだ

*2:女子の野球チーム自体はなかったわけではないらしいが、金属バットを使ったとなると、これは画期的である

*3:[http://www.asahi.com/food/news/OSK200804160029.html:title=asahi.com:ソースにだし汁、どんぶりで味わう「神戸たこ焼き」 - 食]