図書館、ねぇ……
古びた木造の旧校舎(まだ使われてるわよ。一番古いから旧校舎って呼ばれてるだけ)の二階、図書閲覧室の本棚の間を、わたしは何となく歩いていた。
小さい頃は、静かなところが好きだった。
親に連れられて、町立の図書館には、よく行った。
広いところに行くと、とかく子供は走り出して、迷惑かけちゃうものだけど。
わたしは、ゆっくりと本棚を眺めていた。
絵本のコーナーもあったはずなのに、見向きもしないで、000のナンバーが振ってある棚から順に、ゆっくりと歩いていた。
子供の頃と同じように、今も。
町立の図書館よりも古い、図書閲覧室。
整頓はちゃんと出来ていて、感心した。
000総記、010図書館・図書館学、020図書・書誌学……
さすが図書館、まず最初に並べたのは、自分たちのことを書いた本なんだ。
自分たちのことを書くこと、恥ずかしくないんだろうか。
日記を本棚に並べておくようなもの、よ?
ダメ。
わたしなら、きっと恥ずかしさのあまり、顔から火を噴く。
そうなれば、図書館、大火事ね。
すべての物事が灰と化す。
その原因は、自分のことを書いた本を収めた、棚なのよ。
100哲学、110哲学各論、120東洋思想、130西洋哲学……
哲学を勉強したら、人間ってなんなのかとか、少しはわかるんだろうか?
たとえばわたしがなぜ図書館を歩いているのか。そういうことにも答えが出るんだろうか。
知りたい気もするし、知りたくない気もする。
250北アメリカ史、260南アメリカ史、270オセアニア史・南極地方史……
南極地方史、って……ペンギンの歴史かしら? 南極物語?
窓が近くて、明るくなってきた。
そのせいか、このあたりの棚の本、色あせてきてる。
310政治、320法律、330経済……
本、買い換えないのかな。夏の日差しは相当きついだろうし。
ああ、でも、図書館にも予算があるんだっけ。
470植物学、480動物学、490医学・薬学……
高校の図書閲覧室にも、一応医学の本とか置いてあるんだ。
もしかしたら、ここの本を読んで、医者になりたいって思った人とか、いるのかな。
わたしは……図書館のお姉さんに、あこがれていたような気も、する。
図書館に一日中いられるんだったら、いいなあ、って。
将来の夢はお花屋さん、とか看護婦さん、とか言ってた友達からは、白い目で見られたような気もする。
500工学・技術、510建築工学・土木工学、520建築学……
窓からだいぶ離れて、図書閲覧室の奥の方。
古い本の匂い。
古い本の香り。
この香り、大好き。
そう、小さい頃、図書館で何が好きって、この香り。
わたしって、変な子だわ。
変な子だから、こんなこともしちゃう。
ぽふ。
本棚に収められた、古い本たちに、おでこを当ててみる。
ひときわ強く、古い本たちの香り。
胸一杯に、吸い込んでみる。
少々埃を吸ったような気がするけど、そんなの関係ない。
本の香り。
どこか遠くから、部活している子たちのかけ声。
ちょっと前まで、わたしもあの中の一人だったの。
受験。
引きずった足。
そんなの、言い訳よね。
もうちょっと、やりたかった。
でも、引退。
目を閉じる。
本の香り。香り。香り。
図書閲覧室の、奥底で。
図書閲覧室巡りはまだまだこれから。
でも、今はもう少し。
こうしていよう。
三年生全員参加の補講まで、あともう少し。
だから、今はもう少し。
もう少し、こうしていよう。
#もの書き 2006年10月お題『図書館』
……うーん、何が書きたかったんだろう?
http://www.cre.ne.jp/writing/event/2006/library.html