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もの書きお題『ある雪の朝。』

掌編

IRC log: #もの書き予備 2008-02-14
こんな会話があって、それをメモ代わりに習作に。

「今日の日本列島は、昨日から北日本に発達した爆弾低気圧の影響で全国的に雪の予報です。特に北日本東日本西日本では……」
 朝起きて天気予報を確認したとき、そんなことを言っていたような気がする。
 お天気おねーさんがこの寒さでもミニスカートだったことに感動しすぎて、肝心の予報については聞き流していたが、
「南以外全部かい」
 と突っ込んだことだけは覚えている。
 まあ、そんな、朝だったわけだ。


 うちの学校は、街を眼下に望む高い城跡に建てられている。
 昔のおさむらいとかがえっちらおっちら登っていたのとほぼ同じ、学校に向かう一直線の坂道は「心臓破りの坂」と呼ばれているのだが、この日は違った。
 坂道は、この日の朝『アイガー北壁』と呼ばれていた。
 ……誰だ、そんなマニアックな呼び方した奴は。
 ケータイで『アイガー』をググっている間にも、次々と挑戦者たちがアイガー北壁……じゃない、坂道に挑んでいく。
 だが、凍り付いた坂道は、あらゆる生徒を性別学年関係なく、拒み続けている。
 今もまた、一人。
「とぉおおおりゃああああああああああああ」
 間の抜けた掛け声とともに駆け上がっていくのは、同級生のイナバ。まあ、ひとことでいえば、頭の悪い女の子だ。
「てぇえええいいいいいいいいいいいいいい」
 ローファーをツルツルとスリップさせつつも、イナバは少しずつ前進していく。
 だが、坂道の三分の一にも届かないところで、
 ちゅるんっ。
 大きく滑り、
 べちっ。
 顔面から氷の道に倒れ、
 ずるずるずるー……。
 足をこちらに向けて、滑り落ちてきた。
 ふむ。
「あぅううう……」
「よう。おかえり」
「あ。おはよぉ、ヒダぁ」
 うつぶせのままこちらに顔だけ向けて、イナバは俺に挨拶を返した。
「このタイガーほくほく、登れんわぁ」
「オイ、なんか変な名前になってるぞ」
「あれ? 違ごたっけ?」
 イナバは、どこの言葉だかわからない不思議な方言を喋る。小さい頃は親のせいで全国あちこちを転校したことのある俺にはかろうじて理解できるのだが、他の同級生たちには通じないこともしばしば。
 そんな事情もあってか、イナバは割と俺に馴れ馴れしく、気軽に声をかけてくる。俺も、別に嫌う理由もないので、普通に会話する。そんな間柄だ。
 それ以上でもそれ以下でもない。
「今日のアイヤー食パン、なかなか手強いでぇ」
「全然違う名前になってるぞ」
「そうけ?」
「それはそうと、いつまで寝そべってるつもりだ?」
「いやー、これはこれで、火照った身体に気持ちええんよ?」
「そりゃよかったな」
「ヒダもやらへん?」
「いや遠慮しておく」
「そぉ?」
「ああ。俺はこうして立っていた方が、お前のパンツが見えて嬉しい」
 そう。足をこちらに向けて滑り落ちてきたイナバは、制服のスカートがめくり上がり、パンツ丸出しで俺の目の前に寝そべっているのだ。
 なお、白である。
「……え?」
「白か。名前にあっていて、いいと思うぞ」
「み、見るな見るな、見んといてー!」
 慌てて立ち上がり、裾を直す。
 他の生徒たちは、そんな俺たちを遠巻きにしていた。
 ……俺も頭悪い仲間と思われているんだろうか。
「うー……ヒダにぱんつ見られたぁー……」
「お前が見せていたんだろ」
 半泣きの表情で、イナバはぶつぶつ言っている。そんなにパンツ見られたのがショックだったのか。
 ……普通はショックだな。むしろ平然としていたら、引く。ドン引きだ。
「ヒダに見せるのは、全部を捧げる時って決めてたんにー……」
 ……ショックの方向が想像の斜め上だった。ドン引きだ。
 つーか、イナバは俺に何を全部捧げるつもりだ。いや、さすがにそれが想像できない朴念仁じゃないつもりだが。
「ショックやー」
「知るか」
 だが、ここはスルーするに限る。うん。
「……しかし、登れないのか」
 話を元に戻そうと、俺は『心臓破りの坂』あらため『アイガー北壁』を見上げた。
 毎朝見る度に気が滅入る急坂だが、今朝は凍って輝いている分、ひときわ憂鬱な気分にさせられる。
「……休校にならんかな」
「それがねー、もう学校に入った先生がおるらしいんよー」
「どーやって登ったんだ……自動車用の坂は工事中で通行止めだろう」
 そう。バス停とは正反対の位置に自動車が登れる坂があって、普段はそこから先生たちは登るのである。ただ、先日法面が崩れたとかで通行止めになっていたはずだ。
「うーん。詳しくはわからんねん。友達の友達がゆうてたらしいんよ」
「……そりゃただの噂だろ」
「そうなんかなー?」
 誰がどう考えてもただのデマだと思うが、しかし、何となく本当に聞こえるデマというのは、冷静なはずの俺ですら不安になる。
「……とにかく、なんとかこの坂を登らんとな」
「そうやねー」
 とはいえ、俺たちがこうしている間にも次々と『滑落』した生徒たちがここまで滑り落ちてきているのである。さっきイナバが到達したところまでいける生徒自体、少ないくらいだ。
 これは、今の装備で登るのは難しいんじゃないだろうか……
「負けへんっ! とぉりゃああああああああああ!」
 ……俺が考えている間に、頭の悪いイナバは、考えなしにふたたび突っ込んでいった。
「……」
 ちゅるんっ、べちっ、ずるずるずるー……
「あううううう……」
 今度はお尻から落ちて、三角座りの体勢で戻ってきた。
「……お帰り」
「うー……お尻が冷たいー……」
「そうだろうな」
 さっきと違って、今度はパンツに直接である。そりゃ、冷たかろう。
「ぱんつぐちょぐちょになってもうたー……冷たいよぉ……暖めてー、ヒダー」
 そういってこちらに近づいてくるイナバ。
「おい。その言い方はなんか誤解を……」
「我慢できへんー……もうこんなになってるんよぉ……お願い、ヒダぁー」
 実に紛らわしいことをいいながら、スカートを手で押さえつけて、内股でにじり寄ってくる。
 ……この大馬鹿野郎をなんとか止める方法はないもんだろうか。


 そんなこんなで、俺たちが登校できたのは、気温も上がり始めた2時限目頃のことだった。
 授業?
 先生が誰もいないのだ。出来るわけがない(結局デマだった)。
 臨時の時間割編成となって、その日は、雪の中授業が行われたんである。
「ヒダぁー、ぱんつ冷たいよぉー」
「いちいち俺に言うなっ! スチームで乾かせばいいだろ!」
「あ、そぉか!」
「本気にするな! パンツ脱ぐなっ! おいっ!」

アホの子は大好きです。
でも教室でパンツ脱いでスチームで乾かそうとするほどアホな子はちょっと……

#もの書き Wiki - 2008年02月お題「雪の朝」