近代技術史の参考に……すると都合が悪いかも知れません──くじ引き勇者さま4番札、5番札、6番札




 3巻までで一段落ついた、おみくじで選ばれたくじ運の悪い勇者ナバルと、おみくじで選ばれたおみくじ嫌いの従者メイベルの旅ですが、残念ながらある人物から逆恨みを受けてしまい、国を出奔する羽目に。手に手を取って逃げ出した二人の運命や如何に……という三冊。
 サブタイトルを見ると

  • 4番札 誰が女神さまよ!?
  • 5番札 誰が守り神よ!?
  • 6番札 誰が初代大統領よ!?

1番札では小娘だったのに、えらく出世したものです。
 作中に登場する各種技術や、作者のblogを見るに、現実世界でいえば19世紀初頭ごろの話がよく出てくるわけですが、サブタイトルの通り、6番札にて初代大統領が登場します。
 軽くググったところ、現実世界では大統領という言葉はアメリカ合衆国建国(1787年憲法制定、それに基づいて1789年初代大統領就任)の時に初めて出てくるようです。一方『おみくじ』世界では世界初の共和制合衆国である南アステール連邦共和国が建国される前に、すでに缶詰(1810年)やスターリングエンジン(1816年)が発明されているので、20〜30年ほどのズレはあるようです。まあ、この辺はあんまり気にするとつまらないところなので、スルーします(笑)
 椎出としては興味があるのが、蒸気機関車の登場です。5番札で、その可能性について言及され、6番札では試作機登場→一気に量産、実用化、南アステール地方を横断する鉄道(総延長1500km以上)の建設まで話が進んでいます。早い、早すぎる(笑)
 もちろんちゃんと伏線はあって、1番札ですでに帝国首都では『水力列車』が実用化されています。ケーブルカーのような構造で、鋼鉄製のレールを使う技術が確立されているのです。一方南アステールでは鉄道は全く発明されていないのですが、液化ガスを用いた動力船は実用化され、蒸気機関も存在します。
 後は、この二つの地方の技術が良い出会いをすれば……ということになるわけで。そういう意味では、メイベルが南アステールにやってきたのはまさに僥倖だったといえるでしょう。また、南アステール地方も、都市国家それぞれが独自の技術を持っていながら、お互いの技術交流はなかったのですが、6番札でメイベルが縦横無尽の活躍をみせるにいたって、技術が混じり合うことでどんどん技術が進んでいってしまいます。グライダーと新型火薬(黒色火薬の数倍の威力を持つので、1886年に発明された無煙火薬?)を組み合わせて、ロケットブースターによる飛行機が実用化されてしまったのは、その最たるものでしょうか。1903年のライト兄弟が追い越されてしまいました(笑)。一方、今のところまだ内燃機関が本格的な登場をしていません。それだけの熱に耐えられる金属の加工技術と、液体燃料の精製技術が出会っていないようです。でも、この調子でいくとそれも時間の問題でしょう。
 そう。この物語は、何かと何かが出会うことで新しい『何か』がはじまる、そういう物語なのです。メイベルがすっかり色ボケキャラになってしまったように! どさくさに紛れてナバルにプロポーズするぐらいに!(そしてナバルは気づかない)


 ところで、6番札ではとうとうくじ引きをしていないような気がします……いや、大統領選挙にあたってくじ引きをした地域もあったっけ……なんだかタイトルからはどんどん遠ざかっているような気がするなあ……