親子丼卵つき『夕暮れ時の』

「彼がね、好きって言ってくれないの」
「はぁ? マンションの隣の部屋に引っ越して、ほとんど同棲でどっろどろのぐっちょぐちょのラブラブ『性』活、送ってるんじゃなかったの?」
 そういいながら、あたしは、目の前のお好み焼きをコテで切った。
 ちゃんとこの子との境界線をはっきりしておかないと……食われる。全部。
 そんなことをしていたら、この子は、あっけらかんと
「ぎっとぎとのねっとねとじゃ、ないよ。だって、まだセックスしてないもん」
「はあああっ!?」
 驚いた。正直言って、驚いた。ふつう、スルでしょ? 子供じゃないんだから。
 イヤ待て。そんなことよりも。
「あたしもね、セックス、したいよ? でも、なんか、ダメなの。セックスしたいんだけどなぁ。気持ちいいのかな、痛いのかなぁ、セックス」
「セックスセックスって、連呼するなぁっ!」
 この子って、常識がちょっとだけ足りないんだった。
「ああもう、なんでお好み焼き屋で大声でセックスセックス言うかなぁ。セックスセックスって昼間っから言うんじゃないのっ!」
「そっちの方が、いっぱい言ってるよ、セックスって」
 あたしは思わずコテで自分の口をふさいで……ヤケドした。


 お好み焼きを食べたあと。
 あたしたちは、街をぶらぶらしていた。
 路面電車。けばけばしいネオンサイン。夕暮れ時の、街。
「まだ、少し早いねー」
「そうね。一応、9時ってコトにしてるし」
 他の3人との約束の時間は、9時ってコトになってた。
 別に、はっきりと口に出して決めてたわけじゃないんだけど、大体その時間ってコトに。
 都合が、いいのだ。いろいろと。
「でもさ、その、スルのとは別にさ」
「なーにー?」
 ……この子、いつの間にかクレープを買ってる。
 ああもう、なんて幸せそうにもしゃもしゃ食べるんかしら。
 これであたしたちの中で一番細いんだから、世の中って不思議だわ。
「好きって、言ってもらってないの?」
「んー。いまわの際に言ってやるって」
「はー。それ、死ぬまで一緒って意味?」
「毒をくらわば皿まで、とかも、言ってたよ?」
 げげ。なんか口から砂吐きそう。
「ラブラブじゃない」
「そうなのかなぁ?」
「そうよ」
「みんなは、エッチしたかどうかって、いつも話してるじゃない」
「んー。スルのとは、別なのよ、きっと。好きってコトは」
「あたしは、エッチ、したいと思うよ。彼と」
「でも、彼以外とは、したくないでしょ?」
「あたりまえじゃんっ」
「……クレープ飛び散らせながら叫ばないの」
「だって」
「つまりは、そーいうことじゃないの? 好きって気持ちと、シタイって気持ちは、別なのよ」
「……なんか、ごまかされてるよーなカンジー……」
「あはは。はっきりと答えられるわけ、ないじゃん。ミノじゃあるまいし」



少し長めに書いてみましたよ、と。
まあ、設定も一応あるにはあるので。それを書きつつ。
でも、名前は、まだない(笑)


好きとシタイが一緒かどうか、っつーと。椎出はホントは、一緒なんじゃないかな、とも思います。
生物が、この異性との子孫を残したいと思う、本能からしても。
人が、心からともにしたいと思う、愛という気持ちからしても。
でも、そんなことの説明から逃げようとして「別なんじゃないのー?」とかいう椎出も、椎出なのです(笑)