オージェス☆アーリィ! その1

7月30日。


 じゅわわー。
 ショータが図書館から帰ってくると、台所には、アーリィが立っていた。
「お帰りなさいませ、アドミニストレータ」
「ただいま、アーリィ……なにしているの?」
「現在のタスクは、調理です」
 ロボット*1であるアーリィ*2、どうしても会話が、パソコンに向かっているような感じになってしまう。
「料理? アーリィ、料理出来たっけ?」
「いえ。先ほど、マサミの協力を得て、必要なデータベースをインストールいたしました」
「お姉ちゃんの?」
 マサミ、というのは、ショータの姉。中学生で、実は生徒会長らしい。小学生のショータとそんなに身長変わらないけど。
 すると、自分の名前が出るのを待っていたのか、下着の上にキャミソール、あとはソックスという格好で、姉のマサミが台所に入ってきた。
「あ、おかえりー、ショータ〜♪」
 と言うが早いか。
「お帰りのハグ〜♪」
 ショータに飛びつき、そんなにおっきくない胸に抱き寄せて、スリスリさせる。
「や、止めてよおねーちゃんっ」
「いいじゃないー、姉弟の親愛を深めてるんだから〜」
 今日は生徒会の仕事がすぐ終わったのか、さっさとかえってきたマサミ、制服脱いでキャミソール姿で家の中をふらふらしていたらしい。
「暑いんだからーっ」
 姉の『コレ』が嫌いで、ショータ、必死でもがくけれども、華奢なマサミのどこからこんな力がでるのか、まったくはなせない。
「続いて……親愛のチュウ〜……ん〜」
「やめてーっ」
 目を閉じて唇を近づけてきた姉に、貞操の危機を感じて、ショータが悲鳴を上げる。
 と。
 ぽかりっ!
「あいたっ」
「アドミニストレータをはなしてください、マサミ」
 アーリィが、軽くチョップをかます。表情は変わっていない。いや、アーリィには表情を顔に出すためのソフトウェアがインストールされていない。
「アドミニストレータは、嫌がっています。放してください」
 ぽかりっ、ぽかりっ、ぽかりっ!
 チョップ、チョップ、チョップ。
 はなそうとしないマサミに、次々とチョップ。
「わ、わかったわよー、はなせばいいんでしょうー、この焼き餅ロボットー」
「焼き餅──わたくしには炭水化物は必要ありませんが」
 ジト目でぶつぶつ言うマサミに、アーリィは無表情でそう答えた。まあ、確かにアーリィの動力は家庭用交流電源である。
「ごまかすなー、このショタコンロボットー」
「それなら、お姉ちゃんはブラコンだよ……」
 やっと解放されたショータ、仕返しとばかり、実の姉に凄まじい言葉を投げる。
 だが、それを見逃すマサミではない。
「なにか言った?」
「なにも言ってないってば」
「いいや、言ったね。お姉ちゃんを愛してるって」
「!? なんでそうなるのさっ!?」
「あたしも愛してるわっ、じゅてーむっ、もなむーるっ!」
「ぎゃーっ!? 止めてよおねーちゃんーっ!?」
 タコのようにキスしてくるマサミ。必死でもがくショータ。
「助けてアーリィ〜!」
「申し訳ありません、アドミニストレータ。コロッケの調理タスク処理中には、本来このポジションから離れることは禁止されているのです」
 じゅわ〜。
 コロッケは、だんだん美味しそうな色に揚がりつつあった。

*1:正確には自律正義執行システム──オージェス

*2:これも略称。正式なネットワーク認識名はアリウム・ネオポリタヌム、らしい